医療機関の設備投資と優遇税制 2021.9.2

医療機関の設備投資と優遇税制

日々難解になっていく税金の世界。そんな中、今回は医療機関において効果の大きい優遇税制を2つご紹介いたします。今後の経営や設備投資の参考にしていただければと思います。

少額減価償却資産制度・一括償却資産制度

 税理士から「10万円以上の物を買うと固定資産として計上するから、買った年度に全額を費用にすることはできないよ」というような話を聞いたことはないでしょうか?
10万円以上の物は継続的な資産価値が存在するため、買った年度に一度に費用とするのではなく、税法上各資産に定められている法定耐用年数に分けて複数年にわたって費用にしていくことになります。例えば600万円の車を買ったとしても、買った年度には100万円しか費用にならず(定額法の場合)、新車車両の法定耐用年数である6年で徐々に費用化していきます。このように10万円以上の物を購入すると、実際の出費額と税務上費用になる額が相違し、税負担が相対的に重くなり、資金繰りの悪化を招く場合があります。
一方で、10万円以上であっても特別な税制を適用することで、その取扱いを緩和することができます。それが少額減価償却資産制度と一括償却資産制度です。下記表1をご覧ください。
表1

制度 適用可能取得額 取得時の効果 償却資産税
少額減価償却資産制度 30万円未満 即時償却
(全額費用化)
対象
一括償却資産制度 20万円未満 3年均等償却
(3年間で費用化)
対象外

まず少額減価償却資産制度についてですが、30万円未満であれば、当制度を適用することができ、取得時に全額を費用化することができます。ただし、それらの合計額が300万円/年を超えることはできません。
次に一括償却資産制度ですが、こちらは20万円未満の場合に適用することができます。適用すると3年間で費用化することになります。加えて地方税である償却資産税はかかりません。10万円以上~20万円未満の価格帯であれば、どちらかの制度を選択的に適用することになりますが、償却資産税の発生などを考慮し、特段の事情がない限り一括償却資産制度を適用することが一般的に多くなっています。

医療用機器等の特別償却制度

 医療用機器等については一定の要件を満たすと特別償却という償却方法が認められています。この特別償却とは、法定耐用年数に基づく通常の償却(費用化)に加えて、取得時に割増償却を行うものです。これにより出費は変わらず費用の前倒し効果を得ることができます。当制度は詳細には3種の制度に分けることができ、取得時に特別償却することができる割合がそれぞれ異なります(表2)。
表2

高額な医療用機器に
係る特別償却制度 特別償却

割合
対象設備
高額な医療用機器に
係る特別償却制度 12% 取得価額500万円以上で高度な医療の提供に資するもの等又は薬機法の指定を受けてから2年以内の医療機器
医師及びその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度 15% 医療機関が医療勤務環境改善支援センターの助言の下に作成した医師労働時間削減計画に基づき取得した器具・備品、医療用機器、ソフトウェアのうち30万円以上のもの
地域医療構想の実現のための病床再編等の促進のための特別償却制度 8% 病床の再編等のために取得又は建設をした病院用等の建物及びその附属設備

上記表2の中下段の2つは実例が少ないので当コラムでは割愛しますが、上段の「高度な医療機器に係る特別償却制度」では、前提として500万円以上の医療機器等が対象になります。その上で、「高度な医療の提供に資するもの等」か「薬機法の指定を受けて2年以内」のどちらかの要件を満たすことで適用可能となります。
この「高度な医療の提供に資するもの等」については厚生労働省が定めていますが、2年ごとに改定されており、直近の改定は令和3年4月1日となっています。高額医療機器等を購入される場合には必ず最新改定情報をチェックしておきましょう。
また、「薬機法の指定を受けて2年以内」の要件については購入元メーカー等に確認いただいた上で顧問税理士と相談された方がよいかと思います。

今回は以上2点の優遇税制を紹介させていただきました。これらの制度を知らずに過大な税務申告をしてしまうことはもちろん避けなければなりませんが、価格要件などをしっかりと抑えておき今後の設備投資の検討に活用していただければ幸いです。

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中村慎吾

税理士法人名南経営 医業経営支援部 医業コンサルティング担当
株式会社名南メディケアコンサルティング 部長

2007年税理士法人名南経営に入社。
病院やクリニックなどの税務顧問業務に従事するとともに、医療法人設立・持分なし医療法人への移行等に伴う官公庁への許認可申請手続きや、地域に必要とされる医療機関への相続及び事業承継コンサルティング業務を中心に活動。また、事業承継や医療法人制度をテーマとした刊行誌の執筆や税理士・金融機関向けのセミナーも全国で多数実施。公式ブログ「医療法人経営の実務ポイント」においては医療法人情報を随時提供している。