社会福祉法人の海外事業の実施における会計上の取扱い 2018.9.24

社会福祉法人の海外事業の実施における会計上の取扱い

平成30年7月2日付で、厚生労働省より「社会福祉法人による海外事業の実施等について」の通知が発出されました。
技能実習制度における介護職種の追加や、我が国の介護福祉士資格を有する外国人を対象とした「介護」の在留資格の創設など、
社会福祉法人が海外の機関・法人と連携して事業や取組を行う機会が、今後増加することが予想されます。

こうした状況の中、社会福祉法人が海外で行うことができる事業と、社会福祉法人における介護職種の技能実習生の受入れ等についてとりまとめされています。
今回は社会福祉法人が海外事業を実施する場合の、会計上の取扱いについて説明いたします。

(1)社会福祉法人が海外で行うことができる事業

社会福祉法人は、社会福祉法第2条の社会福祉事業を行うことを目的として設立されています。
国内における福祉ニーズの支援が目的であるため、海外事業について禁止されてはいませんが、一定の制約を受けることになります。
海外事業についても、国内事業と同様、社会福祉事業・公益事業・収益事業に区分されます。

①社会福祉事業の一環としての活動
国内の社会福祉施設で勤務する介護職員の採用活動及び研修活動については、国内における社会福祉事業の一環として、海外においても実施できるとされています。
法人の職員とは関係のない不特定多数を対象とした研修事業を実施するような場合は、公益事業または収益事業として取り扱います。

②公益事業
日本国内の福祉の向上に直接的に関連する事業(①に該当するものを除く。)又は日本の公的機関(政府機関、独立行政法人又は地方公共団 体等)の補助又は助成を受けて行われる国際貢献のための事業については、公益事業として実施できます。

<具体例>
・送出国の送出機関や準備機関と連携し、研修事業の委託、講師の派遣等を通じて、介護職種の技能実習生候補者の送出し支援等を行う事業
・送出国の日本語学校等の教育機関等と連携し、介護福祉士を目指す外国人留学生候補者の受入れ支援等を行う事業
・海外で介護人材を募集・育成し、国内での就労へと誘導するための事業
・(独)国際協力機構(JICA)等から助成を受けて行う国際貢献事業(人材養成や海外の老人ホームへのノウハウ供与等)

③収益事業
収益事業として行うことができる事業については、国内における事業実施の場合と同様に実施できます。
また、公益事業として実施できないものでも収益事業として実施できる場合があります。

<具体例>
・海外の介護事業者のための研修事業
・海外の介護事業者のためのコンサルティング事業
・海外での老人ホーム運営
・海外での介護人材養成のための学校運営
・海外での保育所運営

(2)海外事業の資金

法人の財産については、収益事業から生じた収益を社会福祉事業又は公益事業に充当しなければならず、また、介護報酬や措置費等については収益事業に充当してはならないといった制約があり、法人外流出が禁止されています。

①出張所とする場合
海外事業等が公益事業に位置付けられる場合、法人の社会福祉事業、公益事業又は収益事業から生じた収益を、下記の範囲内で充当することが可能です。
充当できる範囲とは、海外事業の規模(すべての海外拠点に係る拠点区分事業活動計算書(第二号第四様式)のサービス活動費用計の合計額)が、前会計年度の法人全体の次期繰越活動増減差額の50%を超えない範囲とされています。
海外事業等が収益事業に位置付けられる場合、法人財産を充当することはできず、新たな資金調達(寄附等)が必要であること。

②出資する場合
法人から現地法人への出資は認められません。
また、海外で法人格を取得せずに事業を実施する場合も、当該法人への単なる出資は認められていません。

(3)会計上の取り扱い

海外事業に係る法人の計算書類の作成については、国内事業と拠点区分を分け、当該事業に係る会計処理を行うことが必要となります。
また、外貨建の資産及び負債については、「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱い」に従い、決算時の為替レートで換算する必要があります。
期中の取引等については、企業会計で適用されている外貨建取引等会計処理基準(昭和54年6月26日企業会計審議会)及び同実務指針(平成8年9月3日日本公認会計士協会)などを参考に、適切な会計処理を行う必要があるとされています。

海外事業を実施する場合には、運営面以外にも、法人税や消費税などの税務申告の問題、
現地で雇用を行う、出向する場合などの労務管理の問題等、事前に検討すべき点が多々あります。

弊社グループでは海外進出のお手伝いもいたしております。
海外事業をご検討の際には、ぜひ一度ご相談ください。

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山本はるか

税理士法人名南経営 会計部 マネージャー

2008年税理士法人名南経営に入社。 医療法人、社会福祉法人、社団・財団法人、NPO法人などのパブリックセクターの会計・税務顧問業務に従事。また、上記の会計・税務顧問業務以外にも、公益法人改革コンサルティングや社会福祉法人の新会計基準移行、法改正コンサルティングにも注力している。社会福祉法人向けの講演は多数あり、実務経験に基づいた専門性の高い講演は非常に好評。会計事務所に対してはセミナーDVDも販売されている。