改正民法が医療機関へ与える影響 2019.7.24

改正民法が医療機関へ与える影響

平成29年5月26日の参議院本会議で、改正民法が賛成多数で可決されました。消費者保護・債権に関するルール・契約に関するルール等の多くの分野で、内容の大幅な見直しが盛り込まれています。そこで、改正民法が医療機関へ与える影響を考えてみますと、債権(医業未収入金)に係る消滅時効の見直しが挙げられます。医療費の未収入金化の防止及び医業未収入金の回収は、医療機関の悩みの種となっており、医業経営における永遠の課題と言っても過言ではないかと思われます。

改正前の民法では、第170条(三年の短期消滅時効)にて、下記のように規定されています。
「次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。・・・・(略)・・・・。
 一 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
 二 ・・・・(略)・・・・。」
つまり、債権を請求できる時点から3年を経過した場合、債務者が「時効を迎えたので支払わない。」と主張すると、債権が消滅し、回収することができないということです。

一方、改正後の民法では、第166条(債権等の消滅時効)にて、下記のように規定されると共に、改正前の民法第170条から174条が削除されました。
「1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
  一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
  二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
以下、略。」
つまり、職種別に細かく規定されていた短期消滅時効に関する規定がなくなり、支払請求期間が二種類に簡素化されたということです。

医療機関が正当に受領すべき医療費が未収入金化する場合には、患者の経済的な問題・医療機関への不平不満に伴う支払拒絶等、色々な要因が背景に隠れていることが想定されるかと思われます。
改正民法が施行されますと、確かに債権の消滅時効は3年から5年若しくは10年になります。しかし、債権回収可能期間が長くなったということをメリットと捉えることができるでしょうか?時間の経過と共に、医業未収入金という債権に対する患者等の当事者意識が失われ、回収がより困難となるのではないでしょうか?

改正民法の変更点を十分に踏まえた上で、医業未収入金を発生させないような仕組み作り・医業未収入金が発生した場合には早期且つ適切な回収が可能となる仕組み作りを心掛けた経営を、専門家と共に検討していくことをお勧め致します。

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佐藤易秀

税理士法人名南経営 会計部 マネージャー

1999年税理士法人名南経営に入社。
税理士として、病院・クリニック・社会福祉法人・公益法人等、幅広い種類の法人・個人の会計・税務顧問業務を中心にクライアントの個別のニーズに柔軟に対応、支援を行っている。上記の税務顧問業務から付随的に発生した多方面にわたる各種コンサルティング業務へも従事している。その他医療機関向けの税制改正のセミナーを多数行っている。