総合診療医の需要 2024.1.29
総合医(総合診療費)、家庭医(家庭医療専門医)、プライマリ・ケア医、ジェネラリスト、 GP(General Practitioner)など様々な呼び名で最近、注目を集めている診療科があります。 専攻医研修では、19 の専門領域が設けられていますが、最近では「総合診療専門医」に加えて「新・家庭医療専門医」が新設されました。 このように、昨今では、患者の疾患に加えてその家族、そして地域全体にまで目を向けて総合的な診療を行う医師の需要が高まっています。総合的な診療と言っても、二次対応、三 次対応まで行うことはなく、各種診療科における基本的な初期対応のみで完結することが ほとんどになります。
こうした総合診療医のニーズがあることに着目し、開業を検討する医師も少しずつ増え てきました。ある開業医は、勤務医時代は脳神経外科でしたが、専門外の内科・小児科を標 榜して、総合診療医として開業されました(※現時点では総合診療やプライマリ・ケアなど を標榜科として看板に掲げることは出来ません)。専門外の領域を標榜することはかなり勇 気がいることですが、相応の下準備さえすれば、総合診療医としての開業は難しくないもの と言われています。上記の開業医は、開業までに訪問診療を中心に行っているクリニックに 非常勤として勤務し、2 年ほどかけて総合診療医としての患者との関わり方や診療およびコ ミュニケーションスキル、他業種(近隣病院や訪問看護ステーションなど)との連携サポー トのいろはを学ばれました。その他、地域の人口動態や患者層、そして住民が求めている医 療は何かという医療ニーズを読み取る能力も磨かれました。
あらゆる症例を抱えてくる患者に対応することになるため、開業時には相応の治療機器 や検査機器を揃えないといけない、と考えている医師も多いようですが、決してそんなこと はありません。総合診療医の行うことの大半は病歴聴取であると言われています。アメリカ 医学教育の「注意深い病歴聴取で 8 割の診断が得られる」という昔からの格言をまさに体 現した診療科とも言えます。実際の現場では、患者の病状や病歴の他、その疾患を患ってい ることで患者自身が感じている心理的ストレスや医師側への要望、期待などを注意深くヒ アリングすることに重点が置かれ、その後は検査や処方などの初期対応のみを行い、必要に 応じて他院や専門機関への紹介等を行っています。このため、開業時は必要最低限の診察道 具、ポータブル検査機器さえあれば、患者ニーズを満たすほどの診察が可能となります。こ のため、土地建物に加えて医療機器に至るまで大きな設備投資の必要性は低く、少ない資金 での開業も充分に可能となります。
また、開業後の収益性について心配される医師も多いようですが、総合診療医は他の内科 や整形外科、眼科などの診療科と比べて、ある一定の集患力を維持してコンスタントな収益 を確保しやすい傾向にあります。これはその診療スタイルに起因します。患者との密なコミ ュニケーションに重点を置いた診療方針が基本のため、必然的に患者との信頼関係の構築
に繋がります。信頼を得た後は、その診察の過程で、その患者のご家族を包括的にケアする 流れによくなります。そして、その患者経由で友人や近隣住民にまでクリニックの評判が広 がり、新患獲得に繋がることも多いです。住民同士の距離感が近い地方に行けば行くほど、 その口コミ力は強くなります。さらに、こうして地域での評判が広まり、患者ニーズを満た し続けるクリニックの存在をいずれは周囲の訪問看護ステーションや病院、診療所も知る こととなり他業種連携、病診・診診連携に繋がっていきます。
ただ、ここ至るまでには、先述にもあるように、開業前の総合診療医としての診療スキル、 コミュニケーション能力の獲得や開業地の入念なマーケティング調査、そして何より地域 住民の医療ニーズを読み取り、患者ごとに合わせて診療スタイルを臨機応変に変化させる 能力を培う努力が大事となります。
に繋がります。信頼を得た後は、その診察の過程で、その患者のご家族を包括的にケアする 流れによくなります。そして、その患者経由で友人や近隣住民にまでクリニックの評判が広 がり、新患獲得に繋がることも多いです。住民同士の距離感が近い地方に行けば行くほど、 その口コミ力は強くなります。さらに、こうして地域での評判が広まり、患者ニーズを満た し続けるクリニックの存在をいずれは周囲の訪問看護ステーションや病院、診療所も知る こととなり他業種連携、病診・診診連携に繋がっていきます。
ただ、ここ至るまでには、先述にもあるように、開業前の総合診療医としての診療スキル、 コミュニケーション能力の獲得や開業地の入念なマーケティング調査、そして何より地域 住民の医療ニーズを読み取り、患者ごとに合わせて診療スタイルを臨機応変に変化させる 能力を培う努力が大事となります。
冒頭に「・・・総合的な診療を行う医師の需要が高まっています」と述べましたが、訪問 診療を導入するクリニックは増えたものの、総合診療医を専門的に行うクリニックの数は 伸び悩んでいる状況です。これまでに、診療報酬改定にて新たな加算項目や緩和策を設ける などして敷居を低くする取り組みがなされていますが、まだまだ結果には結びついていな いようです。次回、2024年の診療報酬改定でも、おそらく訪問診療についてフォーカス されるかと思われます。総合診療医としてのクリニック運営により期待感を持てるような 改定となることを期待するとともに、これからの超高齢化社会に備えて、家庭医育成カリキ ュラムに臨む医師が少しでも増えるような体制作りも必要になってくるかも知れません。
<参考文献>
医師の独立・開業を成功に導く 家庭医療専門医のススメ
著者:小宮山 学 発行元:株式会社 幻冬舎メディアコンサルティング
早水 僚一
2018年税理士法人名南経営入社。 大学、大学院にて応用生物学を学び、構造生物工学の修士号を取得。日々、抗生物質や抗寄生虫薬のドラッグデザインを研究し、その分野の知識を深める。卒業間際、薬剤開発の他にも医療に貢献できる世界があると知り、医業経営コンサルティングの道に方向転換。入社後は、学生時代に身に付けた薬学の知識や医療分野独特の感覚を武器に、医療の最前線で戦う医師のサポートに尽力。経営面はもちろんのこと医療従事者の精神面も陰から支え続けている。