改正医療法に基づき施行される医師の働き方改革とは 2023.4.7

改正医療法に基づき施行される医師の働き方改革とは

「長時間労働の是正」・「多様かつ柔軟な働き方の実現」・「公正な待遇の確保」を目的とした「働き方改革」の実現において、長時間労働の是正という命題の中で大きな問題となっていた「医師の時間外労働」に関して、2024 年 4 月より時間外労働の上限規制を適用するという「医師の働き方改革」を実施することが決定しました。
労働基準法に定める規制と医事法制・医療政策における対応を組み合わせ、医師の診療業務の特殊性を踏まえた「働き方改革」を推進することが骨子となり、その主な内容は、下記の通りとなります。

① 時間外労働時間の上限

時間外労働時間の上限の原則は、労働基準法で 1 ヵ月 45 時間・1 年間 360 時間と定められており、これは医師も同様です。それを超過して時間外労働をしなければならない場合には、一般則は 1 年間 720 時間・単月 100 時間未満(休日労働を含み、年間 6 ヵ月まで。)・複数月平均 80 時間(休日労働を含む。)を限度としております。
一方、医師の場合は、3 段階の水準が設けられることとなります。原則はA水準、救急医療等に携わる医師はB・連携B水準、研修医や高度技能を習得する医師はC-1・C-2 水準となります。各水準の時間外労働時間上限等の条件は、下記の通りとなります。
尚、時間外労働時間が 1 ヵ月 100 時間を超過する場合には、①医師の面接指導、②時間削減等の就業上の措置を講ずることが義務化されています。また、時間外労働時間の上限が高いB・C水準に関しては、①連続勤務時間制限を 28 時間までとする(宿日直許可なしの場合)、②勤務間インターバルを 9 時間以上確保する、③代償休息のセットすることが義
務化されています。(A水準は努力義務となっています。)
<A水準>
・・・・1 年間 960 時間/1 ヵ月 100 時間未満(例外あり)(いずれも休日労働を含む。)
<B水準・連携B水準>
・・・・1 年間 1,860 時間/1 ヵ月 100 時間未満(例外あり)(いずれも休日労働を含む。)
対象医療機関:地域医療の確保を担う医療機関(救急・在宅・へき地医療等)
<C-1 水準・C-2 水準>
・・・・1 年間 1,860 時間/1 ヵ月 100 時間未満(例外あり)(いずれも休日労働を含む。)
対象医療機関:集中的技能向上を担う医療機関(研修・専門医研修の対象施設)

② 改正医療法への医療機関の対応

2024 年 4 月より施行される改正医療法への対応に向けた医療機関の対応として、下記の項目があると考えます。
<A水準>
① 医師の労働時間・労働実態の把握
② 36 協定締結の実施の確認及び内容の点検
③ 医師雇用契約書の再締結
④ 労働時間短縮計画の策定(必要な場合に限る。)(計画始期:2021 年 10 月~2022 年 9 月末)
<B水準・連携B水準>
前述の①~③に加えて、
⑤ 医師労働時間短縮計画の策定(計画始期:2021 年 10 月~2022 年 9 月末)
⑥ 第三者評価の受審(2022 年~)
⑦ 都道府県への申請(2022 年度後半)
<C-1 水準>
前述の①~③に加えて、
⑧ 臨床研修・専門研修プログラムにおける時間外労働時間数の明示(2022 年~)
<C-2 水準>
前述の①~⑦に加えて、
⑨ 審査組織による教育研修環境の個別審査

③ 医師の時間外労働時間短縮目標ライン

医師の時間外労働時間短縮目標ライン(以下「短縮目標ライン」という。)を国として設定することとなりました。
2035 年度末を目標に地域医療確保暫定特例水準(B水準・連携B水準)を解消することとなっていますが、同水準の対象医療機関の実態をなるべくA水準の対象医療機関に近付けていきやすくすることが目標となっています。各医療機関は、短縮目標ラインを目安にしつつ、地域医療への影響も踏まえながら労働時間短縮に取り組むこととなります。
具体的には、2035 年度末の目標値である 1 年間 960 時間以内に向けて、3 年ごとの段階的な目標値を設定し、短縮目標ラインは 2024 年 4 月時点での時間外・休日労働日数に応じて設定されます。

④ まとめ

医師であっても、ワーク・ライフ・バランスを求める権利はあります。一方で、医師不足に陥る等の地域医療をめぐる課題が存在している事実もあります。
これから本格的に始まる「医師の働き方改革」へ対応していくためには、医師は勿論ですが、病院経営者・医師以外の医療従事者・患者等、医療に関わるあらゆる人々が意識改革を行う必要があると考えます。
「医師の働き方改革」により、勤務環境が改善し、多くの医療従事者の多様な働き方が実現することで、労働参加率が上昇し、地域医療をめぐる課題の解決・医療従事者のワーク・ライフ・バランスの実現が可能となるのではないかと考えます。

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佐藤易秀

税理士法人名南経営 会計部 マネージャー

1999年税理士法人名南経営に入社。
税理士として、病院・クリニック・社会福祉法人・公益法人等、幅広い種類の法人・個人の会計・税務顧問業務を中心にクライアントの個別のニーズに柔軟に対応、支援を行っている。上記の税務顧問業務から付随的に発生した多方面にわたる各種コンサルティング業務へも従事している。その他医療機関向けの税制改正のセミナーを多数行っている。