医療機関とインボイス制度 2022.12.16

医療機関とインボイス制度

1.はじめに

インボイス制度(「適格請求書等保存方式」)が令和5年10月からスタートします。あと1年を切ってきましたのでテレビやネットでも制度について報道されることがにわかに増えてきました。
そこで今回は医療機関にとってインボイス制度がどのように関係してくるのかをご説明したいと思います。

2.医療機関とインボイス制度

まず、インボイス制度とは売り手が買い手に対して正確な消費税額を伝えるための仕組みです。したがって医療機関自身が消費税の納税をしなければいけない事業者(納税義務者)であるかどうかによって関係する範囲が異なってきます。

(ア)医療機関が消費税の納税義務者の場合

①簡易課税方式により消費税を納税している場合
簡易課税方式は、受け取る消費税額だけを把握すれば納税額が算定できる仕組みです。したがって医療機関が仕入先等に支払う消費税額を把握する必要はなく、収益により受け取る消費税額だけを明確にするために医療機関側が適格請求書を発行することが必要となります。

ところでインボイスはそもそも消費税を納める事業者が消費税額を正確に把握するためのものですから、消費税を税務署へ納税する必要のない一般の患者には関係のないものです。したがってインボイスの発行を求めてくる可能性があるのは健診等を受託した会社などに限られます。医療機関としてはインボイス発行事業者となるかどうかの判断をしていただくことが必要となります。

②本則課税方式により消費税を納税している場合
本則課税方式の場合、受け取った消費税額に加えて支払った消費税額も正確に把握する必要があるため支払う先にインボイスを請求することとなると思われます。

支払う先がインボイス発行事業者でない場合(免税事業者や、課税事業者でも国税庁にインボイス発行の登録をしていない事業者)、令和11年10月以降は支払った消費税額全額が控除できないことになってしまいますから支払う先がインボイス発行事業者かどうかを把握する必要があり、注意が必要です。

(イ)医療機関が消費税の納税義務者でない場合
この場合、受け取った消費税額も支払った消費税額も正確に把握する必要はないこととなります。ただし、注意が必要なことは医療機関側が請求書を渡す先がインボイスを求めてきた場合にどのような対応をするかということです。例えば企業健診を医療機関に依頼して委託費を支払った先がインボイス発行事業者でなかった場合、その支払った消費税額相当額は会社が納税する消費税額から控除できないこととなり納税額が増えてしまいます。そうなると営利を追求する企業側としては値引き交渉や取引停止の対応も十分考えられます。

医療機関側としては、値引き交渉に応じたりその取引がなくなったとしても免税事業者であったほうが有利なのか、それともその取引を継続して消費税の課税事業者になったほうがまだ有利なのかシミュレーションをしたうえで判断を下す必要が出てくるものと考えます。

3.最新情報

この原稿を書いている令和4年11月28日現在、インボイスに関して中小事業者の税負担を和らげる激変緩和措置が検討されているというニュースがはいってきています。

消費税の免税事業者である医療機関が取引先のためにインボイス発行事業者になること(=消費税の納税事業者になること)を選択した場合になんらかの激変緩和措置が施される可能性が出てきています。その行方をしっかり見守っていただき、適切な判断をしていただきますよう切に願う次第です。

いずれにしましても先生方の顧問税理士によく相談されることをお勧めいたします。

  • 病院・診療所・介護施設の経営変革をここから

井上健

税理士法人名南経営 会計部 マネージャー

1991年税理士法人名南経営に入社。
入社当時から病院、診療所、歯科医院等の医療機関の会計、税務顧問業務を主に担当。2000年の介護保険導入を機に社会福祉法人への支援を開始。現在は社会福祉法人、医療法人、公益法人等のパブリックセクターの会計、税務を専門分野とし、社会福祉法人の新会計基準移行・法改正コンサルティングなどの支援を行っている。社会福祉法人関連団体からの講演依頼多数。