令和4年規制改革推進会議答申(案)から 医療・介護・感染症対策 2022.7.4

令和4年規制改革推進会議答申(案)から 医療・介護・感染症対策

規制改革推進会議とは

規制改革推進会議とは、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方について、総合的に調査審議する内閣総理大臣の諮問機関です。常設の機関として令和元年10月24日に設置されて以降、令和2年7月2日、令和3年6月1日にそれぞれの審議の結果の取りまとめを行い、第3回目の答申(案)が令和4年5月27日に公表されました。
特に改革の重点分野として、今後の日本の生産性向上、成長産業・分野を考えたときに、① スタートアップ・イノベーション
② 「人」への投資
③ 医療・介護・感染症対策
④ 地域産業活性化(農林水産、観光等)
⑤ デジタル基盤
の5つの分野を重点分野としています。 

規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策分野の取組み

本会議の医療・介護・感染症対策分野の取組として、次の5点に関する規制改革項目が取りまとめられました。
 ① 新型コロナウイルス感染症に係る在宅での検査等の円滑化
 ② 医療DXの基盤整備(在宅での医療や健康管理の充実)
 ③ 医療DXを支える医療関係者の専門能力の最大発揮
 ④ 質の高い医療を支える先端的な医薬品・医療機器の開発の促進
 ⑤ 利用者のケアの充実が図られ専門職が力を発揮できる持続的な介護制度の構築
「医療や介護関連諸制度は技術的専門性が高く、さらに国民の生命・身体に直結するために、広く関係者の意見に耳を傾け丁寧な議論を確保することは非常に重要である。しかしながら、複雑な利害関係の前に迷い、立ちすくむのではなく、迅速な国としての意思決定と実行も重要である。」として、各種の既得権益に配慮しつつも果敢な規制改革の必要性が記載されている点が印象的です。

医療DXの基盤整備とは?

医療DXの基盤として、患者・利用者による自宅を始めとする患者等の身近な場所での受診や薬剤受取が可能となるオンライン診療・服薬指導や電子処方箋の普及・促進等は、患者穂に・利用者本位の医療を実現するための基盤となる取組として基本的考え方に記載されています。こうした取組は新型コロナウイルス感染症を背景に、その重要性が大きくなっていることは間違いありません。また、地方の過疎化や高齢化などにより、地方部に居住する高齢者のように医療機関や薬局への移動負担が大きくなっており、そうした患者当に必要な医療を確保する側面もあります。オンライン診療・服薬指導の更なる推進が求められています。また、厚生労働省は、令和5年1月の電子処方箋システムの稼働をにらみ紙処方箋から電子処方箋への迅速かつ全面的な転換を実現するため、電子処方箋システムの医療機関・薬局への導入及び電子処方箋システムの稼働に合わせ整備予定の処方・調剤情報システムへの登録数に関する年度ごと(令和5年度当初から毎年度)の数値目標を設定し、毎年度更新すること、また併せて毎年度の電子処方箋発行数を参考指標として公表することとしています。電子処方箋の導入のみならず、全面的転換とうたっているのが特徴的です。
 また電子処方箋の発行に必要な資格確認・本人認証の手段としての方法の検討すること、その検討にあたり紙の処方箋に比べ電子処方箋が実務的に使い勝手のいいものとなるような運用を求めています。

医療DXを支える医療関係者の専門能力の最大発揮

3年後、すべての団塊の世代が75歳以上に到達すること(いわゆる2025年問題)による高齢化の加速化による医療ニーズの拡大や多様化、そして過疎地域などでの医療従事者の人材確保が課題となることなどの予想の下、医療現場において医療関係者が専門能力を最大限発揮し、限られたリソースを最適かつ効果的・効率的に活用することが重要であり、喫緊の課題であるとされています。そのため、薬剤師の対人業務の強化、医療・介護関係職間でのタスクシフト/タスクシェアの推進、また地域医療構想調整会議の運営の透明化及び社会保険診療報酬支払基金等の審査・支払業務の円滑化の実施を求めています。
ここでは、薬剤師の対人業務の強化と医療・介護関係職間でのタスクシフト/タスクシェアの推進について確認していきます。

薬剤師の地域における対人業務の強化

薬剤師の業務として、患者への服薬フォローアップなど高度な薬学的な専門性を活かす対人業務を円滑に行いえる環境整備とともに、調剤業務(薬剤に関する調整業務)を外部に委託して実施することを可能とする方向で、安全確保のための委託元や委託先が満たすべき基準や委託先への監督体制などの技術的詳細を検討するとされています。
いわゆる対物業務、薬を処方箋通りピッキングしたり、分包したりという業務がアウトソーシングされるようになるかもしれません。薬剤師はもっと患者によりそった活動(いわゆる対人業務)が求められ、よりコミュニケーション能力が問われるようになるでしょう。

医療人材の不足を踏まえたタスクシフト/タスクシェアの推進

ここでは、有料老人ホームにおける看護職員の医行為についての事例共有や周知徹底、かたは介護職員が行い得る「医行為ではないと考えられる行為」について、介護職員が現場で不安を感じないで実践できるよう整理、周知徹底すること、在宅医療を受ける患者宅において必要となる点滴薬剤の重点・交換や患者の褥瘡への薬剤塗布といった行為を薬剤師が実施することの適否に関してその必要性、実施可能性等の課題を整理するとあります。
介護の現場における看護職員、介護職員、薬剤師等ができること、できないこと等を整理し、タスクシフト/タスクシェアすることで介護現場での人材不足を防ぐ、あるいは限られた人的リソースを活用する、ということが検討されるようです。

新型コロナウイルス感染症が引き金となった多くの医療現場での規制への改革圧力

2年前の本コラムにおいても、新型コロナウイルス感染症が医療現場に様々な変化をもたらすのではということを書きました。オンライン診療・服薬指導などを中心とした医療DXの取組、医療・介護職員の効率的な活躍など、これまで規制等で改革や効率化が進んでいなかった分野で、改革の圧力が強まっていますが、これをチャンスととらえ、日本の高度な医療提供体制を維持しつつ、新しいビジネスを生み出す、そして日本から医療版GAFAM(※)のような企業やプラットフォームが出てくることを期待したいと思います。

GAFAM…アメリカの大手IT企業であるGoogle、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの5社を表す用語。

(参考)
内閣府ホームページ 第13回 規制改革推進会議 議事次第
 https://www8.cao.go.jp/kiseikaikaku/kisei/meeting/committee/220527/agenda.html

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植木隆之

2018年税理士法人名南経営入社。
薬学部を卒業後、製薬会社にて医薬情報担当者、医療系物流企業新規事業責任者、病院事務局を歴任、一貫して医療の最前線でキャリアを形成してきた。その間お付き合い頂いた調剤薬局、開業医、民間病院、地域中核病院から大学病院までの多くの医療従事者と培ってきた現場感覚を大切にしながら、薬剤師、中小企業診断士としての専門性を活かした論理的かつ実践的な提案を心がけている。