出資持分あり経過措置医療法人における事業承継対策とは

2018年1月5日

医療法人の中で、いわゆる出資持分ありの経過措置医療法人における事業承継対策としては、以下のパターンが一般的なものとなります。それぞれの制度の概要等を説明と思います。(主にH19.3.31までに設立された出資持分ありの医療法人が該当します)

(出資金対策のパターン)
1 暦年贈与
2 相続時精算課税制度
3 通常の持分なし医療法人への移行
4 特定医療法人・社会医療法人へ移行
5 認定医療法人制度を利用して持分なし医療法人へ移行
 
それでは、各パターンにおける概要とメリット・デメリットについて見てみましょう。

1 暦年贈与
→毎年110万円までの贈与について、贈与税が課税されない
(メリット)
・毎年110万円までの出資持分贈与であれば非課税で後継者に移行できる
(デメリット)
・110万円超の贈与をする場合、毎年出資評価を行い、贈与税を納税する

2 相続時精算課税制度
→贈与者ごとに制度の適用を選択でき、一度選択した贈与者からの贈与については暦年課税に戻すことができない
→贈与者ごとに2,500万円までが非課税となる(ただし前年以前に適用がある場合には適用後の残額)
→贈与額が2,500万円を超えた金額については一律20%の贈与税が課税される
(メリット)
・大きな非課税枠を利用して移行できる
・相続時の出資金の価値を贈与時に固定できる
(デメリット)
・暦年贈与に戻すことができない
・相続時に精算される
・贈与後、出資金の価値が下落した場合も下落前の評価額で相続税が計算される

3 通常の持分なし医療法人へ移行
→出資者全員が出資金にかかる出資払戻及び残余財産分配にかかる請求権を放棄するものです。法人の内部留保の状況によっては医療法人に贈与税が課されます。
(メリット)
○相続対策
・出資金がゼロ(基金拠出型医療法人の場合は基金の額)となるため、相続財産の圧縮が可能
・移行後、医療法人で利益が累積された場合においても、相続財産にならない
○事業承継
・後継者へ出資金の異動に伴う贈与税や譲渡税(所得税)が発生せず事業承継がスムーズ
・同族経営を維持することが出来る
・法人に内部留保を残すことにより後継者へ税負担なく財産を承継させることが出来る
○法人地方税
・均等割の負担が減少する可能性がある
○出資払戻請求リスク
・出資者からの払戻請求ができなくなるため医療法人のリスク回避となる
○納税資金
・出資者や後継者といった個人に課税されず、医療法人格に対し課税がおこなわれるため
 個人の現預金の流出を防ぐことができる
・法人格で資金需要が発生するため金融機関からの資金調達がおこないやすい

(デメリット)
○贈与税の負担
・移行時に、医療法人において贈与税の負担が生じる(損金不算入)
○残余財産
・医療法人の解散時に、残っている財産(残余財産)がある場合、それらは国等へ帰属する
・出資金がなくなるため、設立時に出資した金額が返還されない
 (ただし、基金拠出型医療法人の場合は基金額を返還可能)
○出資持分の払戻請求
・出資者は出資持分の払戻しを受けることができない
○交際費等の損金不算入
・純資産の額が一定額以上となった場合、交際費が全額損金不算入となる
○寄附金の損金不算入
・所得金額×1.25/100が損金不算入限度額となる

4 特定医療法人・社会医療法人へ移行
→特定医療法人及び社会医療法人というより公益性の高い医療法人へ移行します。持分なし医療法人と比較して移行するためには要件が必要となります。
(主な要件)
・役員構成要件
・診療報酬
・特別利益の付与
・差額ベッド
・医療施設の規模
・給与制限   等

(メリット及びデメリット)
③のメリットに加えて、
・税制上の優遇措置がある
・移行時に法人に贈与税が課税されない
③のデメリットに加えて
・非同族経営となる
・給与制限など設定されている要件が非常に厳しい

5 認定医療法人制度を利用して持分なし医療法人へ移行
→③と同様に持分なし医療法人へ移行する制度です。この度、平成29年10月1日より制度が見直しされました。
これによって法人の運営が適正であること等を要件として追加して、移行後6年間は当該要件を維持すれば、移行にかかる贈与税や相続税が猶予免除されるという制度となっています。
今回の改正により、改正前の精度ではネックとされてきた要件のうち、「役員数:理事6人、監事2人以上」、「役員の親族要件:全体の3分の1以下」、「医療計画の記載等の要件」が緩和されており、大幅に制度の利用が見込まれている状況です。

(新たな認定の要件)
1.社員総会の決議があること
2.移行計画が有効かつ適正であること
3.移行計画期間が3年以内であること
4.法人関係者に特別の利益を供与しないこと
5.役員報酬について不当に高額にならないように定めていること
6.社会保険診療に係る収入等が全体の80%超
7.株式会社等に対して特別の利益を与える行為を行わないこと
8.遊休財産額が事業費用の額を超えていないこと
9.法令に違反する事実、帳簿書類に仮装隠蔽がないこと
10.自費が社会保険診療報酬と同一の基準により計算されていること
11.事業収益が事業費用の150%以内であること

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○まとめ
持分なし医療法人への移行は、相続税・贈与税に考慮した医療法人における事業承継対策
1.先代の財産のうち出資金に係る相続税がゼロになります(ただし、基金型の場合は基金額面のみ財産として残る)
2.移行後、法人に財産を内部留保させることで、相続税・贈与税の負担なく運転資金等の財産を後継者が医療法人経営に利用できます
3.移行後は法人がどれだけ利益を計上しても、出資金に係る相続税について未来永劫悩むことがありません

→移行スキームとしては上記で確認した以下のものが挙げられます。
 医療法人の状況によって、方向性を決めてもらうと良いと思います。
③持分なし医療法人へ移行(④以外の持分なし医療法人)(贈与税 課税 ・ 同族経営 可)
④社会・特定医療法人へ移行(贈与税 非課税 ・ 同族経営 不可)
⑤認定医療法人制度を利用して持分なし医療法人へ移行(贈与税 非課税 ・ 同族経営 可)

冨本健嗣

税理士法人名南経営 医業経営支援部マネージャー
株式会社名南メディケアコンサルティング 本部長

2003年税理士法人名南経営に入社。
税理士法人名南経営に入社後、病院及び診療所、歯科診療所等の医療機関・介護事業所・社会福祉法人専門の部署を経験し、税理士事務所としての税務顧問業務だけでなく認定登録医業経営コンサルタントとして各種コンサルティング業務や官公庁への諸手続及び各種セミナー講師まで幅広く業務を行っている。昨今では医療法人設立・出資金等の事業承継対策の相談も多く、北海道から沖縄まで非常に広範囲でコンサルティングを行っている。